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「……ル・ティシェさん」
「はい」
「あの子を……よろしくお願いします……」
「……はい」
…………。
…………。
…………。
イズベルガ:――わかりました。
サイユ:あいよ。
イズベルガ:でも、最近は皆でつるんで行動する事も減っていたとはいえ、やはり少し寂しいですね。
サイユ:まあ、仕方ないよ。
「この日、行きつけの『水晶の龍』亭にチーム『J9』を招集したル・ティシェさんは、メンバーにチームの解散を伝えました。もっとも最近はチームとしての活動も盛んではなく、各メンバーへの影響は軽微ですが」
「イズベルガさんはアイアンサウスの権門ミゥラ家の総帥としての活動が主になっています。また冒険家としては彼女の師であるレードゥルさんと行動を共にする事が多くなっていました」
「天聖界随一の異才と謳われるサイユさんは彼女のラボでの活動が忙しく、今回の招集でこの店を訪れたのが実に1年ぶりのアクロポリスシティという状態でした」
「以前と同じくチームの活動を続けていたのはル・ティシェさんとクラファーだけで、その2人がチームの活動を続ける事が難しくなった以上は解散も致し方なかったのです」
「2人がチームの活動を続ける事が難しくなった理由、それはクラファーの妻、つまりル・ティシェさんの義姉の出産と死でした。難病を患っていた義姉は、しかし周囲の反対を押し切って出産に挑み、そして産後の肥立ちが悪くそのまま逝ってしまいました。ル・ティシェさんに生まれたばかりの男の子を託して……」
「ル・ティシェさんは義姉の遺言を護るため、甥を連れて田舎のノーザリア村に帰る事を決めてくれました。子育てには都会の喧噪よりも、のどかに時間の過ぎていく場所のほうがいい、と考えてくださったからです。それに、ノーザリアにはル・ティシェさんのご両親も健在です」
イズベルガ:ところで、兄さんは……?
ル・ティシェ:ああ……。いる場所の検討をついている。いずれ引っ張りだすが、しばらくは放っておくさ。
サイユ:あの兄さんが、よ……という気がしないでもないけどよ。
「彼女たちのリーダーであるクラファーはこの場所にいません。彼は彼の妻の死後、姿を消していました。妻の忘れ形見、つまり彼の子すら顧みずに」
ル・ティシェ:……らしくない、と思うか。
サイユ:うんにゃ。最初は驚いたけど、今は却って、らしい、と思い始めているよ。
「こうしてアクロポリスシティウエストJ地区9番地に根城を置く事からその名をつけられたチームは、この夜、活動を停止したのです」
…………。
…………。
…………。
ソルスキア:エレ・テュアイアが後を請けてくれる、というのであれば異存はありません。
「『北辺』と呼ばれる色街アンヴェールの老舗『七曜』の主ソルスキアさんです。彼はクラファーの妻とその母を知る人物であり、またクラファーとル・ティシェさんとも深く関わり合いのある人物です」
「クラファーの妻の母という人は、この色街の女でした。そんな彼女と心やすくなったクラファーは、彼女亡き後もこの街を見守り続け、そんなクラファーに共感したル・ティシェさんも今日までこの街を見守り続けていてくれたのです」
ル・ティシェ:ご迷惑をおかけします。
ソルスキア:いいえ。むしろ私はうれしいですよ。あの子とあの子の娘のため、そこまでしてくれたクラファーと、そこまでしてくれるお嬢が。
「ル・ティシェさんは故郷に帰るにあたり、アンヴェールを見守る役を彼女の戦友であるエレ・テュアイアさんに託しました。エレさんは『七曜』での永久無銭飲食を条件に請けた、そうです」
小鉄:姉様、お久しぶりですニャー。
ル・ティシェ:小鉄か。流連おって。
小鉄:よくしていただいてますニャー。
ソルスキア:うちの子たちのいい話し相手になってくれてますよ。……しかし。
ル・ティシェ:はい。
ソルスキア:親娘続けて同じ病で逝くとは、ね。
ル・ティシェ:…………。
ソルスキア:こういう事を言うとお嬢の気分を害してしまうかもしれませんが。
ル・ティシェ:なんでしょうか。
ソルスキア:おそらく、遺伝性の病なのでしょう。お嬢。「母」となるあなたに敢えて聞きたい。覚悟は出来ていますか……?
ル・ティシェ:……その事なら、多分、大丈夫です。
「それは、覚悟が出来ている、という意味ではなく、もうその病で人の命が失われる事はない、という意味なのだと思います」
…………。
…………。
…………。
レイガ:お帰り。よく眠ってるわ。
「それは、この方とサイユさんがいるからです。ル・ティシェさんが甥の育ての親になる事を決心した時、2人はある事をル・ティシェさんに告げました」
「クラファーの妻と、その母の命を奪った病の研究を、2人はずっと続けていた事。治療法の確立をクラファーの妻にも間に合わせたかったが、間に合わなかった事。しかし、彼女の息子には絶対に間に合わせる事……」
「ル・ティシェさんは、かつての不思議な体験から、2人の言には真がある、と感じたのです」
…………。
…………。
…………。
祥子:ル・ティシェ様。私、決めました。私はここに残ります。
「サイユさんやイズベルガさんがJ9としての活動をセーブする中、ル・ティシェさんをサポートしていたのは、この祥子さんでした」
「ル・ティシェさんからノーザリアへの同行を勧められていた祥子さんでしたが、彼女はアクロポリスシティに残る事を選択しました」
ル・ティシェ:……そうか。
祥子:「水晶の龍」亭に住み込みで使っていただける事になりました。
ル・ティシェ:わかった。私はお前の選んだ道を尊重する。
祥子:はい。
「『心』は、いつしか自分の『翼』で飛ぶ事が出来るようになっていたのです」
…………。
…………。
…………。
ケンプ:2階、片付け終わったぜ。
「『水晶の龍』亭では祥子さんを迎えるため、2階の倉庫に使っていた部屋の掃除が行われていました」
エレ:…………。
ケンプ:どうした?
エレ:あんた、なんでここにいんの?
ケンプ:オイィ! 俺、この店のスタッフ! 要所要所で出てるだろ!
エレ:そうだっけ? まあ、いいや。お疲れさん。
ケンプ:全く。
メル:家具はどうする? 上には何もなかっただろう。
エレ:それはサキが来てからでいいわ。ケンプ、買いに連れていってあげて。荷物持ち、よろしく。
ケンプ:おうよ。そういやぁ、お嬢は明後日の朝だったな。行くんだろ、見送りには。
エレ:うんにゃ。別に、そんな仲良しでもないし。それに、どうせ……。
ケンプ:どうせ、なんだ?
エレ:いや、こっちの事。そういえば、あんたはどうすんの。見送りついでに、あいつを追っかける?
メル:まさか。「母」になるあいつに、興味はない。
エレ:ふーん。じゃあ、すぐに忘れちゃうわけ?
ケンプ:…………。
メル:それも、まさか、だ。
エレ:へぇ……?
メル:一千年経とうとも忘れはしないさ。
…………。
…………。
…………。
「ル・ティシェさんは生来異性に恋愛感情を抱かない人でした。彼女にとってそれは普通の事でした。しかし同時にその他の大勢にとっては普通ではない事も彼女は知っていました。だから、その事を彼女は限られた人にしか明かしていませんでした」
「そんな自分が、女として『欠陥』のある自分が、子育てなどとあまりに大それた所行なのではないか、とル・ティシェさんは悩み、そしてご両親に全てを話す決意をしたのです」
母者:そういう事もあるやろ。人それぞれやね。うちはティシェが幸せなら、その他はどうでもよか。気にならん。
「この時までル・ティシェさんは、年相応の落ち着きを持たない人、としてお母様をあまり好いていなかったのです。でも、この時お母様の見せた全く動ずる事のない態度は、そんな気持ちを一変させたのでした」
母者:大丈夫よね。なんぼでも助けちゃる。なんぼでも頼りや。うちの子育てには定評があるんよ、なぁ。
ファンルース:ああ。見本がここにいる。
…………。
…………。
…………。
「ここは10年前、ル・ティシェさんがクラファーを頼ってアクロポリスシティに出てきた時に住んでいた家です。別に住まいを構えてからも倉庫としてずっと借り続けていたのでした」
クラファー:……ルーか。
ル・ティシェ:起きろ。
クラファー:何か、用か。
ル・ティシェ:肝心な事を義姉さんと談判していなかった。兄者から責任ある回答をもらいたい。
クラファー:……なんだ。
ル・ティシェ:あの子の養育費だ。
クラファー:金なら、今まで貯めたヤツをやる。全部持っていけ。もういいか。いいなら出て行け。
ル・ティシェ:そんなもので足りるか。私はあの子を連れてノーザリアに戻る。あの子の養育費には、私の未来に対する補償も含めてもらおう。
クラファー:……いくらだ。
「ル・ティシェさんが口にしたのは、ひとりの男が一生かかろうとも絶対に稼ぎきれないぐらいの額でした」
クラファー:…………。
ル・ティシェ:…………。
クラファー:……稼げ、と言うのだな。
ル・ティシェ:そうだ。
クラファー:……生きて、稼げ、と言うのだな。
ル・ティシェ:そうだ。
クラファー:手厳しい。
ル・ティシェ:フン。
クラファー:……だが。ああ、そうだな。あいつはきっと、こうなる事を見抜いていた。だからお前にあの子を託したのだな。
「……はい」
クラファー:名前を、聞かせてくれ。もう決めてくれたのだろう……?
ル・ティシェ:……マルコ、だ。
クラファー:マルコか。いい名だ。お前と、あいつと、そして、優しい風が護ってくれる。
ル・ティシェ:……兄者は、知っていたのか。
クラファー:甘く見ないで欲しいものだな。なぁ……?
…………。
…………。
…………。
「出発の日です。ル・ティシェさんは皆に話していた出発の時刻の数時間前に、アクロポリスシティを離れようとしていました」
「同道するご両親とサイユさんにだけそれとなく告げた上で、こんな事をするのは、見送られるのが気恥ずかしいから、という理由と、あとひとつ……」
「しかし、そんなル・ティシェさんを読み切っていたのは、この方でした」
ル・ティシェ:む、おまさ……。
おまさ:お待ちしておりました。
ル・ティシェ:……よくわかったな。
おまさ:ずっとお側におりましたから。ご主人の考えている事は、だいたいわかります。
ル・ティシェ:そうか。
「初めてアクロポリスシティに来た時、家業を継ぐのを嫌って家を飛び出したクラファーを追って、自らも家を飛び出した時、ル・ティシェさんはこの道を歩いて来ました」
「そして、今、故郷へと続くこの道を歩いて戻る事が、ル・ティシェさんの秘かな考えだったのです」
おまさ:お邪魔でなかったら、私も共に歩ませていただいてよろしいですかな?
ル・ティシェ:…………。
おまさ:…………。
ル・ティシェ:……お前とも長い付き合いだな。
おまさ:は。
ル・ティシェ:行こうか。
おまさ:御意。
ル・ティシェ:……不思議なものだ。二度と戻れぬ道ではない。帰ってこようと思えば、いつでも帰れるのに、どうしてこうしんみりとするのだろうな。
おまさ:そういうものです。
ル・ティシェ:そうかな。そうだな。
今後はなろうで。
この記事に対するコメント
上手く言い表せませんが、この濃密さと寂しさが
一族の描く5年という歳月なんだろうなと感服致しました。
みんなのヘアスタイル代(
……なんてコメントが出来ないくらい、
丹念に美しく物語が収束していって。
その先に、読者みんなの頭に同じように浮かんでいるであろう、
この不安すら物語の味付けに感じるのは
さすがの一族の手腕と感じざるを得ないわけです。
このあとどうなるのか、怖がりながらも楽しみでしょうがない。
つまるところ、
さっすが一族ッ!おれたちにできないことを
平然とやってのけるッ!そこにシビれる、憧れるゥッ!
という訳です(
この更新にコメントがつくとすれば、あなただろうと思っていました。
それは、私が最近取り組んでいた「それぞれのキャラクターがそれぞれにこれから歩んでいく道を示す」という事を4年前に成されたのがあなただからです。
ヘアスタイル代も、いつもの私なら決して出さなかったでしょうが、ここでケチるなんて、とガガッと変えましたよ。
ただしそこそこお手頃なものばかりなのは秘密だ(
今はそんな感じです。
それでは!
追いかけてる途中の今はこれだけ。
ル・ティシェのカット、とてもきれいです。
古来より一族サーガの起点と終点を巡る議論は絶えない。即ち、どこからどこまでを一族サーガと呼ぶのか、という議論である。
このうち終点について「未来飛行」で衆目の一致するところだ。
厳密に言えば「タイムウォーカー」こそ一族サーガの最後尾である。だが、25年後のサイユ・ホーランドは自らの存在を含めた「その歴史」の抹消を選んだ。故に「タイムウォーカー」は確かに存在したエピソードでありながら、同時に「なかった事」でもあるのだ。後世の史家たちは、25年後のサイユ・ホーランドの忘れ得ぬその挙に想いを馳せつつ、彼女の存在はイレギュラーである、とサーガの但し書きとしてのみ残すのである。
一方、一族サーガの起点については今も見解が分かれている。神代までも含めるべき、という暴論はさすがに鳴りを潜めているが、「R2」の敵役ノディオンが絡む2ndインパクト時を起点にという最古派の勢力は根強い。
主要登場人物の登場を起点とすべき、という観点から「Infiorata」を推すテュアイア派も盛んだ。「Tears of Eden」の前史に相当する「眠りの森の美女たちの事件」を推す一派も、だいたいはテュアイア派に吸収されたようである。
そんな中で現在主流を占めているのは、群像劇の様相の強い一族サーガにおいて絶対的存在感を誇るル・ティシェおよび彼女の親族の登場時を起点とする、という立場を取るル・ティシェ派だ。ル・ティシェおよび彼女の親族に関連するエピソード中、最も古いタイムスタンプの「no no darlin'」が、彼らの推す起点である。「no no darlin'」はル・ティシェの両親のエピソードであり、ル・ティシェ本人が登場する「Goodbye Day」を推薦する声もあるが、多数派とはなっていない。
以上、簡単に一族サーガの起点と終点に関する諸説を紹介したが、無論、これらはこの文章の本論ではない。この文章の本論は、筆者が新たに提唱する一族サーガの起点と終点となるエピソードの発表である。
前提として筆者はル・ティシェ派である。しかし「no no darlin'」を起点とする事には反対の立場を取っている。また「未来飛行」を終点とする事にも反対の立場を取っている。
もったいつけずに書いてしまおう。筆者が推すのは「飾り窓の通りから」を起点とし、「My Road My Journey」を終点とする説だ。主体としてのル・ティシェが登場し、そして退場していったエピソード、と言う事も出来るだろう。
……以上のような後書きを書きかけていたぐらい、私は元気です(
それでは!
しかし、一見とんでもない文章に見せつつ、
読めば読むだけ作り手の想いを感じる元気ぶりです。
「サーガ」を名乗るのに偽り無し。
群像劇の中で一人の人物の登場から退場を描ききるなんて、
三国志の蒼天航路のようではないですか。
爽やかさすら感じる一族の手腕に、
改めて古参で語りたいなとしみじみ思う追加コメントなのでした。まる。
物寂しさを感じつつも
ものごっつぅ語りてぇという衝動が(
ライさんも言ってますが
色々拝聴したいですね……。
こういうしょうもない事をやらせたら、私はなかなかのものですよ(
自画自賛はさておき。
後付け後付けでやってきたわりには、それなりに線になった、というのは自分でも不思議な気持ちです。
語り、いいですねぇ。
ギャグも、シリアスも、全てを包括してマシンガンの様に語りまくって、そして聞きまくりたいですねぇ。
書き手の醍醐味ですよ。
たゆとさんへ
以前の分析的語り、期待しております(
物語を書き切った後だからこそ語れるもの、というのがあると思います。
逆を言えば、道半ばなら語ってはいけない。
振り返るのは最後だけでいい。
……だから、あの長文は書くの止めたんでs
でも、語るのはやっぱり楽しい。
これもまた絶対に真実なんだな。
と語るおれ(
それでは!
新人ですしまだ終わってない身なのでとりあえず物陰からこっそり見ていますが一言。
この物語を楽しみにしております。と。
ギャグと見せかけて、割と迫真だった、という噂です(
だからこそ途中で止めたんですががが。
フフフ、もうすぐ4周年ではないですか。
もうこれっぽっちも新人じゃないですy
競っているわけではなく、そもそも勝ち負けがあるわけでもないですが、私が意識するのはEcho Timeです。
それでは!