ECO家の一族 クローバーワールドの片隅に生きる、とある一族のお話。
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De temporum fine comoedia

「乾杯王の広場」――


「――あ、あいつ」

「ぬけぬけと、この街に」







「あいつ、あいつ、あいつ、あいつ、あいつ、あいつ、あいつ、あああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーッ!」


















…………。


…………。


…………。












サン・スーシ館――


ウェルナーグ:神子様ッ! 神子様ーーッ!


ヒルデ:なんですか、子供。騒々しい。


ウェルナーグ:大変です! イェンシュ様が、大変なんです!


ヒルデ:……ユスティが、どうしたのです。


ウェルナーグ:「乾杯王の広場」で、人を……!


ヒルデ:人を……?


ウェルナーグ:刺して、自警団に捕縛されたんです!


ヒルデ:ユスティが、人を刺して、自警団に……?








アウエ:お嬢様! 失礼いたします!


ヒルデ:アウエ、いいところに。あなたも、随分と息が上がって。……ユスティのことですか?


アウエ:お嬢様は、もうご存じでいらっしゃいましたか。


ヒルデ:今、ウェルナーグが知らせてくれたのです。……事実なのですか?


アウエ:はい。


ヒルデ:どこの誰を……? そもそも、どうして……?


アウエ:子細は、まだ。


ヒルデ:ウェルナーグ。あなたは、何か?


ウェルナーグ:いえ。僕も、何も。








ヒルデ:……押っ付け、自警団から照会があるでしょう。今は、待ちましょう。












…………。


…………。


…………。












ブールカルト自警団 本部 控室――



ラインマイア:ユスティ、何故……。


ユスティ:…………。


ラインマイア:あの男は、いったい誰ですか。


ユスティ:…………。


ラインマイア:ユスティ……!


ユスティ:……ジーク。


ラインマイア:はい。








ユスティ:私は、取り返しの付かないことをしてしまいました。


ラインマイア:…………。


ユスティ:大恩あるお嬢様に、申し訳が立たないわ。この上は、死んでおわびを……。


ラインマイア:! 駄目だ! そんな!


???:そうです。いけません。


ユスティ:その声は、マキ……?








ラハテンマキ:はい。イェンシュ殿。自害はなりません。


ラインマイア:あ、あなたは……。ここに、どうやって。


ラハテンマキ:ジークフリート・ラインマイア自警団副団長。私はリューディア・ラハテンマキ。選帝侯よりヒルデ様の警護に任じられている者です。


ラインマイア:左様でしたか……。


ラハテンマキ:イェンシュ殿。もう一度、言います。自害はなりません。自害は不心得です。


ユスティ:……なぜ?


ラハテンマキ:このまま自害されては、三星公の家令が人殺しをした、という記録が残ります。








ユスティ:…………。


ラハテンマキ:無宿女として処刑されるのです。


ラインマイア:!


ユスティ:!


ラハテンマキ:無宿女の処刑記録――これと引き換えに、あなたの存在はブールカルト候が消去します。


ラインマイア:あ、あなたは、何を言っているんだ!


ユスティ:……できるの、ですか。


ラインマイア:ユスティ!?


ラハテンマキ:選帝侯に不可能はありません。その代わり、もしここへヒルデ様がおいでになっても、決してお会いにならぬこと。これのみ、きっと守ってください。ヒルデ様以外の者を沈黙させるぐらい、ブールカルト候にはたやすいことです。


ユスティ:…………。


ラインマイア:…………。


ラハテンマキ:…………。








ユスティ:……わかりました。マキ、きっとお願いね。


ラハテンマキ:はい。――ラインマイア殿。


ラインマイア:は……。


ラハテンマキ:ヒルデ様が事態の説明を求めておられます。至急、報告に上がりなさい。



ラインマイア:承知、いたしました。












…………。


…………。


…………。












サン・スーシ館――


ラインマイア:お嬢様。ラインマイア、参りました。


ヒルデ:ラインマイア。聞きましょう。


ラインマイア:…………。


ヒルデ:どうしたのです?


ラインマイア:……お嬢様。ラハテンマキ、という方は、真実、お嬢様の御付きなのでしょうか。


ヒルデ:ええ。ラハテンマキに会ったそうですね。


ラインマイア:は……。


ヒルデ:なんですか、その顔は……。


アウエ:ラインマイア氏……?


ラインマイア:…………。


ヒルデ:……ああ。ラハテンマキの言ったことを、あなた、気にしているのですね。


ラインマイア:…………。








ヒルデ:愚か者! 頭を冷やして、よくよくラハテンマキの言ったことを考えてみなさい!


ラインマイア:お、お嬢様……!?








アウエ:……ラインマイア氏。ラハテンマキ様の言葉をイェンシュ様がお守りになっている限りは、少なくとも処刑の日までは、イェンシュ様が軽挙されることはないのよ。


ラインマイア:!


アウエ:あなたも、四六時中、イェンシュ様のそばに張り付いていることもできないでしょう。仮に、できたとしても、例えば、舌をかみ切られでもしたら……。


ラインマイア:…………。


アウエ:死ぬ決意を固めた者を止めるのは、とても難しいことね。


ヒルデ:わかりましたか、ラインマイア。


ラインマイア:はい。








ヒルデ:では、改めて聞きましょう。ユスティが刺したというのは、どこの誰だったのです。


ラインマイア:まだ詳しくはわかっていないのですが、どうも、冒険家崩れの無宿者、のようなのです。


ヒルデ:冒険家崩れ……?


アウエ:……イェンシュ様は、なんと?


ラインマイア:何も。


アウエ:……お嬢様。私、心当たりがございますの。調べても、よろしいでしょうか?


ヒルデ:あなたの心当たりとは、なんです?


アウエ:イェンシュ様の生家です。


ラインマイア:!


ヒルデ:アウエ。私も同道しましょう。ついでに、私にも同道してもらいましょう。








アウエ:は。お嬢様はどちらへ?


ヒルデ:メルセデス・ソラのところに。あの者なら何か知っているでしょう。ユスティの家というのは、どこにあるのです?


アウエ:郊外に。少し遠いですわね。


ヒルデ:では、先に「七曜」に行きましょう。


ラインマイア:お嬢様。私は、どのようにすれば……。


ヒルデ:ラインマイア。あなたは、ユスティのそばに。万が一、ということがあるかもしれません。目を離さないように。








ラインマイア:はっ!












…………。


…………。


…………。












「七曜」――


メルセデス:ようこそ。


ヒルデ:……聞いていますか?


メルセデス:ユスティのことですか。ええ。


ヒルデ:相手は、どこの誰です? あなたなら、わかるでしょう?


メルセデス:……半殺しではなく殺しておくのでしたな。全く。


アウエ:あの男のこと、ですの?


メルセデス:ええ。まあ、事情をくどくどと説明するのは差し控えさせていただくとして、ですね。何しろ、私のことではありませんから。


ヒルデ:ええ。








メルセデス:ユスティが刺し殺したのは、あれがここに堕ちる原因となった男です。


ヒルデ:…………。


メルセデス:若気の至り、でしょうな。のぼせ上がって家を飛び出し、懸命に尽くした相手は、絵に描いたようなろくでなしで。後は、弊履のごとく捨てられて、までがお定まりというやつで。


アウエ:そんなことが……。


メルセデス:……この先の岬から、飛び込みまして。


ヒルデ:ユスティが……!?


メルセデス:はい。たまたま、うちの者が見掛けて、助けたのですが……。冷たい水に長い時間つかりすぎたのがいけなかった。あの子は、流してしまった。








アウエ:う……。


メルセデス:相手のろくでなしは、捜し出して痛めつけ、この街から放逐したのですよ。失敗でした。あのとき、ぶち殺しておけば……。


ヒルデ:……そういうことだったのですね。わかりました。


メルセデス:神子様。どうなさる?


ヒルデ:どう、しましょうか。……三星公の名を使えば、この街でなら人殺しぐらい、なんとでもできるのでしょうけど。


メルセデス:はい。








ヒルデ:ユスティは、私の名を汚した、と考えています。死ぬことで私に対してあがなおうとしている。その心を呼び返すには、どう、しましょうか。


メルセデス:…………。


ヒルデ:……ところで、一つ、聞きたいのですが。


メルセデス:なんでしょうか。


ヒルデ:だまされ、捨てられ、絶望のあまり身投げまでした女を、あなたはどうしてここで使おうと思ったのです?


メルセデス:……実家に戻そうとしたのですが、先方からはねつけられましてね。仕方ない、どこか遠くに嫁がせようと準備をしていたのですよ。ところが、あの子を見初めた、とある旦那が、うちの者に手引きを依頼し、それをあの子が請けてしまいまして。


ヒルデ:…………。


メルセデス:おかげで、大切なお得意と、気の利いた若い者を失ってしまった。


ヒルデ:何をしたのです、あなた。








メルセデス:私の許しなく勝手をする者は、誰であろうと容赦はしません。


ヒルデ:おお、怖い。では、ユスティは?


メルセデス:きつく、折檻しましたよ。それが、また、いけなかった。


ヒルデ:どうして?


メルセデス:本気で叱ってくれる慈母のような女と勘違いさせてしまいました。


ヒルデ:あなたを?


メルセデス:ええ。


ヒルデ:それ、勘違いだったのですか。








メルセデス:勘違いでしょう。本当の慈母なら、いくら当人が望もうと、色街の女になどするものですか。


ヒルデ:まあ、そうかもしれませんが。


メルセデス:そうですとも。


ヒルデ:さて、アウエ。


アウエ:はっ。


ヒルデ:先ほど、同道すると言いましたけど、やめておきましょう。あなたに任せていいですか?


アウエ:はい。こちらでだいたいのことはわかりましたし。








ヒルデ:頼みましたよ。……ユスティの家族とはいえ、その者らの顔は見たくないですから。












…………。


…………。


…………。












サン・スーシ館――


ラインマイア:ユスティに、そんな過去が……。


アウエ:お嬢様。今後は、どのように……?


ヒルデ:考えあぐねていますよ。あなたたち、何かいい知恵はありませんか?


ラインマイア:…………。


アウエ:…………。


ヒルデ:ああ、もう。せめて私に相談してくれていれば、適当に理由をでっち上げて誅殺したものを。


アウエ:あら。恐ろしい。


ヒルデ:偽りのない心境、というやつですよ。――ああ、いらっしゃい。








エレ:神子ちゃん、大変なことに……。


ヒルデ:ええ。そうだ、エレ。あなたも相談に乗りなさい。


エレ:なんです?


ヒルデ:私の名を汚したので、死でもってあがなおうという、馬鹿な考えをやめさせる方法。


エレ:イェンシュ様のこと、ですね。


ヒルデ:そう。私を含めて、この場の全員、役立たずしかいなくて。








エレ:……恩義で、縛る。


ヒルデ:恩義で……?


エレ:生殺与奪を、全て神子ちゃんに預ける、とイェンシュ様が誓約せざるを得ないぐらいの強大な恩義で、縛るんです。








アウエ:しかし、イェンシュ様は既にお嬢様から大恩を受けていらっしゃるわ。


エレ:それは、イェンシュ様が神子ちゃんと出会ってから今日までの話ですわ。私が言っているのは、今回の一件のみの話です。


ヒルデ:……具体的には?


エレ:……さあ?


ヒルデ:エレ……!


エレ:そんな簡単に考え付くようなことになら、イェンシュ様だって縛られたりしません。








ヒルデ:ふむ……。












…………。


…………。


…………。













ラインマイア:お嬢様。衛士隊からユスティを引き取りたい、との申し出が届いたのですが……。


ヒルデ:断りなさい。……無宿女である以上、衛士隊の出る幕ではないでしょう。


ラインマイア:はい。


ヒルデ:伯父様のご配慮でしょう。衛士隊で預かり、時期を見て放免しようという。


ラインマイア:なるほど……。


ヒルデ:ですが、それでは、死にたがりの心をこちらに戻すことはできません。


ラインマイア:はい。それから……。


ヒルデ:それから?


ラインマイア:ユスティが、刑の執行を急ぐように、と。


ヒルデ:……あまり、長い間、自警団に置いておくのもかわいそうですしね。


ラインマイア:…………。








ヒルデ:恩義、ねぇ……。普通に命を助けられても、ユスティは私に感謝しないと思うのですよ。あなたは、どう思いますか、ラインマイア。


ラインマイア:私も、お嬢様と同じです。


ヒルデ:でしょう。エレも適当なことを言ってくれます。


ラインマイア:…………。


ヒルデ:……ラインマイア。


ラインマイア:はい。


ヒルデ:刑の執行には、どれくらい時間がかかるのです?


ラインマイア:そ、それは、いったい、どういう意味でしょうか。


ヒルデ:自警団で殺人に科す刑罰の種類は?








ラインマイア:……絞首。


ヒルデ:刑の決定から実行までは?


ラインマイア:……最短で、即日。


ヒルデ:では、三日後。


ラインマイア:お嬢様!


ヒルデ:ラインマイア。安心なさい。私に考えがあります。


ラインマイア:どのような……?


ヒルデ:あなたからユスティに伝わるでしょうから、言いません。


ラインマイア:そのようなことは……。


ヒルデ:あなたが口を滑らすと言っているわけではありません。あなたの顔色で知られる、と言っているのです。私にとっては大したことではありませんが、あなたはきっと驚くでしょうからね。


ラインマイア:…………。








ヒルデ:ユスティにも、せいぜい驚いてもらいますよ。












…………。


…………。


…………。













エレ:神子ちゃん、お呼びですか。


ヒルデ:ええ。ちょっと頼みたいことがあるのですよ。ラハテンマキに頼んだのですが、拒絶されましてね。


エレ:ラハテンマキ……?


ヒルデ:ああ。私の護衛です。どうしてもできない、と言うので、あなたに頼むことにしたのです。あなたなら、やってくれると思いましてね。


エレ:……何を、すれば?







「え、ちょっと、お待ちを。私も、それはできません。神子ちゃん、勘弁して。そんなことを私に押し付けないで……」







「駄目です。勘弁しません」


















…………。


…………。


…………。












「乾杯王の広場」――


「無宿女」の処刑日。








 押し寄せた群衆の間を縫って「無宿女」を連行する自警団の列が進む。








 誰もが事態をつかみかねている。








「無宿女」が三星公ヒルデ・ノヴァリスの家令であることは、ブールカルトの隅々まで知れ渡っている。








 ――自警団団長クサヴァー・ハマンにより「無宿女」の処刑が宣告されようとした、そのときである。







「『無宿女』にあらず」

「その者の名はユスティ・イェンシュ。予の家令である」

「過ちであった。値せぬ男に魅入られてしまった、若さ故の過ちであった――」








「――しかし、罪は罪である。罰は受けなければならない」

「だが、ふびんである。あまりにも、ふびんである」

「故に、予が汝の罪を引き受けよう」













「唯一女神様より授かりし黄金の御髪を贄としてささげん」








メルセデス:まさか、そんな……。








デジデリア:うそ……! ヒルデ、本当なの……!?








ラインマイア:お、お嬢様……。












「ああああああああ……!」





「そんな、そんな、お嬢様……!」





「私のために、そんな、ああああああああッ……!」







 残され星のものがたり 第204話 「De temporum fine comoedia」 終

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